とにかく身体を温めるためにお湯にゆっくりと浸かり、ふと考える。
私、何にも解決してないのに、ここについてきて良かったの?
箱根に行くはずが、戻ってきた理由も話していない。

俊に渡されたトレーナーもスエットもやっぱり大きくて、乾燥機の中の服を目で追いかけながら悩んでいた。洋服が乾くまで、ここにいるべき?

私ここを出ていけない。どんな顔して出ていけるの?
”コンコン”  突然、浴室のドアをノックする音に心臓が跳ねる

『薫? 大丈夫か?』
「はい、大丈夫」
『温かい飲み物用意したから、出ておいで』


廊下に出て、リビングに続くドアをそっと開ける。まだソファーとラグマットしかないリビングは、かなり広く感じる。
俊はキッチンカウンターで、ガラスサーバーからコーヒーをカップに入れて
いる最中だった。コーヒーの香ばしい香りがしてくる。

『そこのソファーに座って』


俊がチラッと私を見てソファーに座るように促す。2つのコーヒーカップを
持って、一つを私に渡すと『温まるよ、飲んで』と優しく言った。
俊はソファーに座らず、私の座るソファーを背にしてラグに腰を降ろす。

「ありがとう。美味しい」

俊はすでに着替えていて、コーヒーを口にしてから私の言葉に
後ろを振り返った。

『それ、大きすぎだな』
「でも、助かったわ。お風呂まで借りちゃったし」
『で、何で木村の車降りたの? 忘れ物だって?』

ん?何で俊が木村先生の車に私が乗った事知ってるの? 突然の話のフリに
私は首を傾ける。