一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】




少しだけ眠って目を覚まし、階段を降りるとクロエさんはいなくて、車もなかった。

冷蔵庫には蛍光のイエローの付箋(ふせん)が貼られていて「食事は別で。何時に帰るかわからない」と、昨日の手紙のコピペの様に書かれていた。
付箋の余白を見ているうちに、胸の辺りが重くなった。


冷蔵庫の中にはいくつものガラス保存容器が乱れることなくピッチリと収められていて、自分が拒絶されているみたいだった。
前に自分が「今まで食べたハンバーグの中で一番美味しい」と言った蓮根のハンバーグもあったけれど、そう言った自分に向けて作られたものなのか、偶然なのかはわからない。

お腹はすいていたけれど、あまり食べる気は()かなかった。

それでもクロエさんがせっかく作ってくれたので、少しだけ食べた。
会話がそんなになくても、1人で食べるのと2人で食べるのではやっぱり違う。



昼過ぎにスマホを見ると、姫野さんから「PCが思ったよりも早く直ったから、持って行こうか?」とメッセージが届いていた。
「迷惑でないなら取りに行きます」と送ると、すぐに姫野さんから返信が来た。

家を出る支度をしていると視線を感じた。
振り返ると、ちぃちゃんが構って欲しそうにビー玉みたいな目を更に丸くして、ジッと見つめている。

「ごめんね」と言って何度か撫でて、家を出た。