一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

クロエさんがくれた鍵のついたパドロックのキーホルダーも、玄関の扉も。
すべてが重く感じる。

自分が気付かないうちに、クロエさんに何かしてしまったんだろうか。

扉を開けると、ちぃちゃんが出迎えてくれた。
だけど手を差し伸べると、嫌そうな顔をしてどこかへ行ってしまった。

さっきまで姫野さんのにぎやかな家にいたせいか、いつもよりもやけに静かに感じる。
薄暗い廊下に響く自分の足音が、静けさを増長させた。

クロエさんの車は、まだなかった。
仕事から戻っていないのかと思ったら、冷蔵庫には夕食が用意されていた。

ラップはいつもより少しだけ緩く張られ、短い手紙が添えられている。
手紙には「夕食は別で。何時に帰るかわからない」とだけ、綺麗な文字で簡潔に書いてあった。

今週は忙しくない、と言っていたのは自分の聞き間違えだったんだろうか。

そういえば未だにクロエさんとは連絡先を交換していない。



この日は初めて、クロエさんに一枚も写真を撮られなかった。





その夜も俺は寝付けなくて、クロエさんは朝方に帰って来た。
玄関まで降りて行こうかと思ったけれど、返ってくる反応が怖い。

そのまま毛布にくるまると、瞼の裏に離れでの出来事が浮かんできて上手く眠れなかった。

急に、首に噛まれた跡が残っていないか不安になった。
だけど起き上がって確認するのも面倒くさくて、そのまま目を閉じた。