一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

「七海さんと律くんの結婚には何も言わなかったけど、姉と妹だと違うんだろうね。
ナナくんとクロエくんが2人の結婚式の前撮りするみたいだけど、ナナくんが一番張り切ってたし。
……アオイちゃんって、そういう願望ある?」

「そういう願望?」

「結婚とか、そういう将来の願望。
あ、これってセクハラになる……?」

姫野さんは恥ずかしそうに「ごめんね」と言い、大きな身体を少し曲げて頭を下げた。
そのギャップが可愛くて「セクハラですね」と返すと、ライムとレモンが相槌を打つように鳴いて、姫野さんは更に深く頭を下げた。

「冗談ですよ、俺は聞かれても大丈夫です」

「良かった。で、どう思ってる?」

「そうですね……ずっと一緒にいよう、向き合っていこうって想い合えるって、すごい事だと思います。
これだけ人がいるのに、お互いが相手に対してそう思えるって……」


すごい確率の奇跡だと思う。

自分には、そんな奇跡は起こる気がしない。


姫野さんが顔を覗き込んで「そう思えるって?」と、聞き返す。

「そう思えるって、素敵ですよね。
結婚が義務だとは思わないですけど、自分は誰かと一緒にいたいです」

急いで笑顔を作って、そう答えた。

自分にも、そういう相手がいつか見つかるんだろうか。
ナナセちゃんみたいに、前に進めるんだろうか。

確信を持てる事なんて、今の自分には何一つない。

「今って、そういう相手はいるの?」

「え?」

「つまり、アオイちゃんが付き合ってる人」

「いません、まったく」

自嘲気味に笑うと、姫野さんは笑わずに聞いた。

「じゃあ、クロエくんは違うの?
そういう関係じゃないの?」

「違います、そんな関係じゃありません」

すでに瑤子さんから一度聞かれた質問だったから、あまり動揺はしなかった。
そんな関係じゃない。

クロエさんに必要なのは、カイトさん。
それは叶わない事だけど。

「そっか……あ、起動したね」


PCの画面は、やっと切り替わった。


「よろしくお願いします」と言うと、姫野さんは笑顔で頷いてくれた。