一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

クロエさんはなにも答えなかった。

ただただ腕を絡ませ、抱きしめられる。
この前みたいに身体を触ってきたりはしない。

首に回された腕の重みが心地よくて、つい身体をもたれ掛けてしまう。

クロエさんよりも背の高い自分が、上からもたれ掛かったら重いんじゃないだろうか。
そう気づいて身体を起こそうとすると、クロエさんは引き止めるように髪を撫でた。

髪を撫でる細い指も、伝わってくる心拍音も、すべてが気持ちいい。


「――はい、三十秒」

クロエさんはあっさりと身体を離すと、皮肉な笑顔を浮かべた。

「明日、飲み過ぎないように」

「……明日は飲みません。
自分への戒めとして、しばらく禁酒します」

「禁酒、ねぇ」

興味なさそうに言うと、クロエさんは火を止めた。

「クロエさんが酔いつぶれたら介抱します」

「それはない」





寝る直前に、やっと謎の三十秒間がなんだったのかわかった。

俺が、ナナセちゃんのことを思い出して、暗い顔をしていたからだ――。

抱きしめられて、お酒のことをからかわれて、自分が気を落としていたことをすっかり忘れていた。
ナナセちゃんには申し訳ないけれど……。


ソファーで抱き締められてから数日間、クロエさんは一切触れてこなかった。


――次はちゃんと言って。


この一言が、ずっと(まと)わりついてる。

茉莉香に似たクロエさんの唇に、して欲しいこと――。