一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

「そういえば羊羹、いつ作ったんですか?」

「三時か四時」

「……今朝、お仕事早かったですよね?」

「あまり寝ないから、オレ」

「あまりって……三時間も寝てないんじゃないですか?」

「いつもそれぐらい。
料理はだいたい、夜中や朝方にしてる。
どうせ眠れないし」

最初は寝ないと言ったけれど、正しくは眠れない(・・・・)、なのか……。


ここで暮らし始めてから、俺は茉莉香の事を考える時間は減って、前より眠れるようになった。

日中は展示会の作品制作に集中して、疲れたら、ちぃちゃんとじゃれ合う。
夜は仕事から帰ったクロエさんと夕食をとって、写真を撮られる。
自由にしてて、と言って部屋で撮られる事もあるし、スタジオで撮る事もあった。
これで良いのかなってくらい、自由に暮らしてると思う。

まだ夜中に目を覚ます事もあるし、人畜無害男のヘラついた顔を思い出して苛立つ事もある。
茉莉香から連絡はないか、意味もなくスマホの確認もする。

それでも、だいぶ良くなった。



クロエさんが眠れない原因は、好きな人を失ってしまった事なんだろうか。
それとも家族の事なんだろうか。


自分と似た身体の人は、いったいどんな人だったんだろう――。


契約が成立したあの日以来、この話はまったくしていない。