一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

瑤子さんの帰り際、一度も話に出てこなかったクロエさんの父親の事を聞いた。

「いないも同然よ」

それだけ言うと瑤子さんは帰っていった。
真っすぐな背筋とレッドソールが目に焼き付いた。





「瑤子さん、なんか変な事とか言ってなかった?」

「いえ、何も。
素敵な人ですね、瑤子さんって」

帰宅したクロエさんの質問に笑顔でそう答えたけれど、クロエさんは疑いの眼差しを向ける。

恋人かと聞かれたことは言わなかった。
自分とクロエさんでは、釣り合いが取れていないにも程がある。

「羊羹を絶賛してました。
綺麗で食べるのがもったいなかったです。
クロエさんってお料理なんでも出来て、すごいですね」

「そんな事ない。
レシピ見て、そのまま作ってるだけだし」

そう言いながら目の前でスパイスからカレーを作っているクロエさんは、やっぱりすごいと思う。
ターメリック、コリアンダー、クミン、ガラムマサラ、クローブ……あとの名前は覚えられなかった。


初めて会った日から、もうすぐ二週間。
クロエさんとの会話のペースが少しだけ掴めてきて、沈黙はあまり気にならなくなった。
クロエさんが言った、いろいろ難しく考えないで、という言葉の影響もあったのかもしれない。

「餃子とカレー、どっち?」
主語のない質問にも慣れて、カレーと答えた。

明日はここで餃子カレーパーティーが開かれる。
クロエさんの友達は、夏といったら餃子派と、夏といったらカレー派に分かれていて、毎年持ち寄ってパーティーをしているという。
胃もたれしそうなパーティーですねと言ったら、クロエさんは少しだけ笑ってくれた。