一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

「クロエさんが俺を? まったく覚えてないです……」

記憶にはない――けれど、雇ってもらえるのならありがたい。
一日でも早く働きたい。

「どんなバイトなんですか?」

クロエさんは口角を少しだけ上げた。

クリアな白目の三白眼に、蒼白い肌。
どこか作り物みたいな雰囲気のするクロエさんは、口角を少し上げるだけでも意味深に見える。

「動画、撮っておいてよかった」

クロエさんはスマホートフォンをポケットから取り出し、何度かタップするとスクリーンを俺に見せた。
そこに映っているのはバーカウンターに並ぶ俺とクロエさん。
何度もカウンターに突っ伏しては起き上がり、呂律(ろれつ)が回らない俺に、クロエさんは水を飲むように促している。


『もっと水飲んで』

『大丈夫ですよー。楽しいお酒っていいですねー!』

全然大丈夫じゃない。
飲んでいる水の半分はダラダラと服にこぼしている。
痴態(ちたい)のお手本のような自分を見るのはキツイ。

『じゃあ、オレ達の契約内容の確認』

『はいっ!』

勢いだけは立派な返事。
けれど何も理解してはいないだろう。
スクリーンの中のクロエさんは、手にしている紙に視線を落とす。

『一、アオイはクロエの家で一か月暮らすこと』

『はい!』

『二、アオイはクロエの被写体になること』

『はい!』

『三、人肌恋しくなった時はよろしく』

『はい! わかりました、ご主人様!』

『ご主人様? オレが?』

『だってそうじゃないですかー。雇ってくれるんですからー。
なんでもいいから、もう一杯飲みましょうよー!』

『……証拠動画、終わり』


棒読みの締めの言葉で動画は締めくくられた。

これがクロエさんと交わした契約……?

クロエさんは固まっている俺に向かって、無表情のまま口を開く。

「今日からよろしく」