一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

なぜかクロエさんはずっとテーブルを見つめたままで、アイスクリームにまったく手をつけない。
手にしたガラスの器の中でアイスクリームは溶け出して、真っ赤なベリーはチョコレート色に染まっていく。


「溶けちゃいますよ?」

そう言うと、溶け始めているアイスクリームをやっと食べ始めた。

「あっ…ま………」

予想以上に甘かったようで、クロエさんが少し出した舌にはシルバーに光るピアスが見えた。



クロエさんは甘いアイスクリームを酸っぱいベリーで中和させて食べ終えると、切り出した。

「ナナだったら、契約した?」

「なんで七星さんが出てくるんですか」

どういう意味で聞いているのか、表情から意図を探ろうとしたけれど、(うつむ)いた顔には前上がりの髪がかかり、よく見えなかった。
右耳にはピアスが一つも開いてない、という事だけがわかった。

「ナナには、笑ってた」

傷つけられたような、怒ったような眼を向けられる。