一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

二人で玄関に立ったまま、どう切り出そうかと考えていると、「イチゴとチョコ、どっち?」と先に聞かれてしまった。
咄嗟に「チョコ」と答えると、「リビングで待ってて」とだけ、クロエさんは言った。
答え合わせは後で良いと思い、主語のない質問の意味は聞かなかった。


さっき、初めてクロエさんが食事をするところを見た。
箸の使い方や食器の扱い方、そのすべてが、どこか人と違った。
音のしない、流れるような所作と言うんだろうか。
育ち、という言い方はあまり好きじゃないけれど、育ちが良いって、多分こういう事なんだろうと思った。

食事という、人間の三大欲求の一つを満たす場を共にしたはずなのに、廊下を歩くクロエさんの後ろ姿はやっぱり透明に見える。



言われたまま真っ黒なリビングへ行くと、少ししてからクロエさんが両手にガラスの器を持って入って来た。

「こっちのリビングに来たんだ」

「リビングダイニングキッチンの方のリビングだったんですか?
すいません、移動します」

リビングが2つもある家だと、こうなるのか。
ややこしい。

「どっちでもいい」

ガラスの器を差し出しながら、クロエさんがそう言った。
器に盛られたチョコレートのアイスクリームには、冷凍のベリーが添えられていた。