一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

七星さんと学校や学校周辺のお店、好きな映画や小説についていろいろ話した。
何についても自分よりも詳しいし、話すのも上手で笑いが止まらなかった。
今度おすすめのDVDを持ってくる、と言ってくれたけれど、その時に自分はここにいるんだろうか。

俺達がそうしている間にクロエさんは料理を終えて、呼びに来た。
クロエさんはエプロンを外し、暑い、と言ってシャツのボタンを幾つか外すと、勢いよくパタパタと仰いだ。
昨日よりもはっきりと、ちぃちゃんの瞳の色みたいな緑色の(へそ)のピアスが見えた。
七星さんは、「クロエさん、女性が!いるんですからね!」と言って慌てて止めたけど、本人はいまいち意味がわかっていないようだった。


クロエさんは短い時間で、レモン風味のよだれ鶏に、甘辛ダレがたっぷり絡まれた肉巻き野菜。
さっぱりした爽やかな夏野菜のマリネと、いろいろな野菜が入ったグリーンサラダ。
やさしい味の玉子と豆腐のスープを作ってくれた。
七星さんは美味しい美味しい、と言って大きな口で食べ、あっという間にお皿は空になった。

ニンジンは、どこにも使われていなかった。



七星さんは帰り際に、「クロエさんを、よろしくお願いします」と、こっそり耳打ちして笑った。
でも自分なんかに、この人に出来る事があるとは思えなかった。

気づけばまた昨日と同じように、この広い家の中で2人きりになってしまった。

沈黙は、昨日よりも重くない。