ゆっくりと唇を離すと、クロエさんは眼を細めた。

「つまりアオイは、オレがただ抱いたと思ってたんだね」

「そう、ですね…てっきり……」

クロエさんにしてみたら良い気はしないだろうけど、確かにそう思っていた。

「汗かくの好きじゃないって、言ったよね。
なんの気持ちもない相手に、わざわざ汗をかくような事はしない」

「そんな……むちゃくちゃな……。
クロエさんは言葉が…足らないというか、少な過ぎるというか…。
それに離れでだって、カイトって言って…ああいう事をしたから……」

「……カイトって、口にしてた?」

「はい、一度ですけど…」

「ごめん……。
確かに、アオイとカイトを……重ねてた時もあった。
でも、全部が全部っていうわけじゃなくて…」

そう言うと、クロエさんは急に首筋に唇を押し当てた。
思わず声を漏らしてしまうと、クロエさんは小さく微笑んだ。

「ソファーとベッド、どっち?」

「ソファーと……ベッド………」

いつもの主語のない質問。
だけど、その主語はわかる。

「あの夜をやり直さなきゃ。ソファーとベッド、どっち?」

「今、から……?」

「そう。後悔してるから、早くやり直したい。
あと、言葉が少ないって言われたから、今日は全部ちゃんと言葉にするから」

「全部?」

「どう触れたら良いかも、どこが気持ち良いかも、全部アオイに聞くから」

「あれは、そういう意味じゃなくて……」

「ちゃんと全部、答えてね」


意地悪く笑うと、クロエさんは身体を重ね、唇を落とした。

やっぱりクロエさんは、とてもとても………狡い。