一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

両手首を掴み上げられると、何をされるのかはすぐにわかった。

グラスの水滴で濡れてしまったサテンのリボンは、手首から滑り落ちる事なく巻かれていく。


「アオイは禁酒出来なかったけど、オレはちゃんと禁欲してたから。
……ご褒美もらって良いよね?」

手首を掴む力も、手首のリボンも、どちらも強くも痛くもない。
簡単に逃れられる。

だけど、薄っすらと笑みを浮かべ、器用な指先で縛っていくクロエさんから目が離せなくなってしまった。

止める言葉も発さず、抵抗もせず、その姿に魅入ってしまう。
ただ見ているだけなのに、どうして息が上がっていくんだろう。


漏れ出してしまいそうな息を抑えたくて、下唇を噛んだ。


「途中で嫌って言ったら、やめたのに」

冷たい眼で見られると、身体は更に熱くなった。

クロエさんの細い指がきつく閉じていた唇を開き、ず
っと抑えていた熱い息が漏れる。


「我慢しないで」


どんなに堪えても見透かされてしまう。

狡いのはアオイと言った唇で、もっと狡い事を言う。