一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

「なんか……ちょっと……いろいろ考えちゃって………」


一瞬、眼の奥が泣いてる様に見えた。

撫でる手が必要なのは、自分じゃなくてクロエさんの方なんじゃないのか。


「家にいたらまずいなって思ったから、帰らなかった。
……もっと、してしまいそうだったから」

「もっと?」

「つまり、離れでした以上のことを」

冷めた筈の体温が上がった。

クロエさんが恥ずかしがったり、動揺したりせずに言うから、自分もそうしたかった。
だけど、酔いは冷めていっているのに顔はどんどん火照(ほて)っていく。

「でも、だからって……。
突き放す、みたいな態度とか……目を合わさないとか……」

「気持ちに余裕がなくって」

「説明…してくれたって……」

「そうだね」


眉尻を下げたクロエさんの眼が少し緩んで、困った様に微笑む。

そうなって、やっと頬を撫でる指先を受け入れられた。


「クロエさんは、言葉が足りな過ぎます……」

「そうみたい」


手のひらで片頬を包まれると、気持ちはゆるゆると緩んだ。


「……ああいう、恥ずかしい事する時は、しゃべる癖に……」

「恥ずかしい事って、何?」

そう言って意地悪く笑うクロエさんは、やっぱり狡い。