一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

なにが、どうして。どうやって自分を乱した?

クロエさんがなにも言わないから?

五杯も飲んだから?


そうだ。
きっと飲まなかったら、「おやすみなさい」を言って、明日からは、また「おはよう」と、はじめられていた。



「……アオイ」


なんで、クロエさんの声がするんだろう。

いよいよ、自分はやばいのかもしれない――。


そう思っていると、顔を覆う手を、冷たい手で掴まれた。

しゃがんで視線の高さを合わせ、水を持っているクロエさんがぼんやりと見える。


「アオイ、水飲んで」

「……やだ」

「飲んで」

「嫌です」

「顔真っ赤だし………身体、熱い」

また頬に、首に、触れる。
気持ちの良い指先で。

だけど意味もなく、反発したい。


「……いや!」


まるで、イヤイヤ期の子どものように返すと、クロエさんが水を飲んだ。

だんだん顔が近付いてくると、ぼやけていたクロエさんの顔は細部までよく見えた。

やっぱりクロエさんの瞳は茶色に少しグリーンが混ざった不思議な色をしていて、睫毛は細くて長くて、唇はちょっと厚みがあって――

左顎の下の方にある、小さな、小さな、ほくろ。
はじめて気が付いた。

近くだとよく見える。
でも、このままだと――唇が重なってしまう………。