一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

「……狡いって、なに?」

クロエさんは狡いと言われても表情を変えない。
ちょっとは変わると思っていたけど、大きな勘違いだった。

自分には、この人は動かせないんだ。



ならば、もういっそ全部ぶちまけてしまいたい。



「……どうして、パーティーの後、あんな風に家を出ていったんですか?」


「え…?」


ダメだ、止まらない。


「どうして、朝方まで帰ってこなかったんですか?
どうして、目を合わせてくれなかったんですか?」



最初は小さく震えていた声は、言い切る頃には大きく荒々しく変わり、息が上がった。

静けさが襲う部屋には、自分の息だけが虚しく響く。



クロエさんは眼を少し見開いて、ソファーに横たわる自分をただ見ている。



……呆れたんだ。


言うんじゃなかった。



言わなかったら、こっちの気持ちなんてクロエさんは気付かなかったのに。


一か月だけの関係―――それも、雇用関係なのに。





こんな自分を見られたくなくて顔を覆うと、指の隙間からオレンジの色の照明だけが差し込んだ。

クロエさんの顔は見えないし、見たくなかった。