一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

本屋へ行くと、見覚えのある凛とした横顔を見掛けた。

黒いシャツと黒いパンツ、煉瓦(レンガ)色のギャルソンエプロンという花屋のユニフォームに身を包んだ律さんは、パーティーの時とは違う印象だった。
声を掛けようか迷っていると、律さんも俺に気付いて声を掛けてくれた。
「電子書籍なんて、いちいちスワイプすんの面倒くせぇ。でも本増やすと、七海がうるさいんだよなー」とボヤく律さんは、幸せそうに見える。


「あ。俺さ、お土産はご当地ビールが良い。
どうせ車で行くんだろ?」

「…何の話ですか?」

律さんの言っている話が見えない。

「何って、海の話」

「海の話……?」

「クロエと海に行くんじゃねぇの?
知り合いのホテル、2人分でとって欲しいって頼まれたんだけど」

そんな話、聞いてない。

「しまった、あと3分で休憩終わるわ。
俺、会計行くから。
とりあえずビールな、ビール」

律さんはそう言って足早にレジへ向かった。



もしかしたら家を空けている間、クロエさんは一緒に海へ行く人と一緒にいたのかもしれない。

瑤子さんは、クロエさんは友達と旅行に行かないと言っていた。
人と長時間は一緒にいられないタイプだと思う、とも言っていた。


じゃあ、その人とはどんな関係なんだろう。

付き合っていると考えるのが、自然だ。


そういう人がいるのに、離れで自分にした事はなんだったんだろう。
それだけカイトさんが特別で、それとこれとは別という事なんだろうか。


一か月の関係なんだから、他の人がいたっておかしくはない。

というより、俺が期間限定の他の人(・・・)であって、その人が通常の、クロエさんの日常の相手なんだ。


どうして言ってくれなかったんだろう。
俺に話さなきゃいけないわけじゃないけれど……。