一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】




翌日も同じだった。

帰ってくる車の音がしたのは朝方で、冷蔵庫の付箋には「食事は別で。何時に帰るかわからない」。
昨日と同じ文章に、腹立たしいくらいの余白。

自分が悲しんでいるのか怒っているのか、よくわからなくなった。


どこかに出掛けよう。

いろいろな情報や騒音に埋もれて、自分の思考を止めたい。
本屋に行って欲しかった新刊を買って、ペットショップに行ってちぃちゃんにおもちゃを買って、ずっと行ってみたかったカフェに行って。
帰ってきたら、姫野さんの直してくれたPCで作品制作を進めよう。


俺がこうしている間、クロエさんは普通に仕事して、普通に過ごしてる。
それなら自分だって普通に過ごしたい。


いつも通りの量の朝食を食べた。
ピクルスの咀嚼音はやけによく聞こえるし、胃もムカっとしたけれど、いつも通り過ごしたい。


朝食を片付けていると、ちぃちゃんは全力でお腹を見せてきた。
「今日は構って欲しいの?気まぐれだね」と言って撫でると、上機嫌な顔を返してくれた。

本当に、気まぐれだ。



ちぃちゃんも、その主人も………。