一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】

家に着くと、やっぱりクロエさんの車はなかった。

ちぃちゃんは昨日と同じで、近寄って来たと思ったらぐに離れていった。
昨日よりも嫌そうな顔で。



少しだけ夕食を食べて、シャワーを浴びた。
シャンプーとボディーソープを間違えてしまうと、髪はキシキシと絡まった。

絡まった髪を乾かしているとクロエさんが髪を乾かしてくれた時の、少し甘いシトラスの香りを感じた。
まだ髪は半分も渇いていないけれど、ドライヤーを止めた。

快適になったPCを早速使おうと思ったのに、そんな気になれない。
せっかく姫野さんが直してくれたのに。

申し訳ないと思いながら横になると、肌の上で器用に動くクロエさんの指を思い出した。

それを忘れたくて、意味もなく寝転がったり、伸びをしてみる。

だけど、絡められた脚も、首に立てられた歯の鋭さも、重ねられた手の熱さも、どれも身体から離れない。

煙草の香りだって思い出せる。


―――クロエさんは(ずる)い。


離れでの事がなかったら、突き放す様な態度も、2日間まともに顔を合わせていない事も、ここまでは気にせずにいられたのに。



少しすると、昨日あまり寝ていなかったせいか急に瞼が重くなった。

もしも夢にクロエさんが出てきたら、狡いって言おう。


現実じゃ、言えないから。