時は大戦から三年後。建国から千年目を迎えるこの日、アウストリアでは国中を挙げてのお祭りが行われることになった。

即位から五年でアウストリアを大陸一の強国へと導いた若き皇帝・ルヴェルグ、先の第二皇子であった皇弟・エレノス、同じく先の第三皇子であった皇弟ローレンス、そして、現皇帝の妹である皇女クローディア。

この四名は先帝の子、すなわち兄弟でありながら、帝位争いをすることなく、非常に仲良く育ったことで世界中から驚かれていた。

アウストリアも含め、この大陸の国々は長い歴史の中で、皇族による玉座を争う血生臭い出来事が幾度もあった。

だが、この兄弟はエレノスとクローディア以外の母親は、我の子こそ玉座にと望む有力な貴族の出でありながら、一度も(いさか)いを起こさないどころか、月に決められた日には必ずお茶会をしたりお忍びで出掛けるほどに仲の良い兄弟であった。

「──エレノス閣下、クローディア皇女の御成りっー!」

クローディア皇女の住まいである南の宮から馬車を走らせること数分。皇帝の住まいがあり政をする場でもある皇宮に二人が到着すると、誰もが喜んで出迎えると同時に、滅多に公の場に顔を出さない皇女の尊顔を見てうっとりとしていた。

まるで紡いだ糸のような銀色の髪、雪のような白い肌、ヴァイオレットの瞳、咲いたばかりの赤薔薇のような唇。どこを見てもうっとりとしてしまう容姿である皇女の姿を見たくて足を運んだ貴族は数えきれない。