「せーらは、芸能人の俺が好き?」
「……うん、好きだよ」
どんな郁でも、郁だから、好き。
それがほんとう。
だけど、もっと、もっとほんとうは。
芸能人の郁よりも、幼なじみの郁の方がずっと――――ずっと、大切で、好きだけど、そんなことお仕事を頑張っている郁に言えるわけない。
わたしは、いつからこんな嘘つきになっちゃったんだろう。
「ん。じゃあ、仕事頑張らなきゃなー」
「みんな、応援してるもんね?」
「“みんな” じゃなくて、俺にとってはせーらに応援されてるかが、重要なわけ」
心がぎゅうっと締めつけられる。
ごめんね、郁、ほんとうにごめんなさい。
心の底から応援できていない自分がいやになる。
「よし、帰るか」
郁の手が当たり前のように、目の前に伸びてきた。
その手を掴んで立ち上がる。
郁と横並びで通用口を歩いていると。
「ちょお、なに自分らだけで帰ろうとしてんねん」
オレも混ぜてや、とバタバタと相馬さんが駆けてきた。
郁が一瞬、本気で嫌そうに顔をしかめたけれど、そんなのお構いなしに割り込む相馬さんと、結局3人で並んでビルを出る。



