こんな大事なもの忘れてどうするつもりなのかしら、と郁ママは毒づいた。
それから、突然 「そうだわ!」といいことを思いついた、というテンションで弾んだ声を上げて。
「せいらちゃん、今日って時間あるかしら」
「えと……はい。特に用事はない、ですよ?」
「撮影現場って興味ない? 芸能人を生で見てみたくないっ?」
「へ……っ? え、ええと、それなりには……?」
「うんうん。じゃあ、この鞄、私の代わりに郁のところまで届けてくれないかしら?」
「ええっ!」
わたしみたいな部外者の一般人が勝手に立ち入ってはいけないんじゃ……という、わたしの不安要素は郁ママのからっとした
「大丈夫よーっ、台本を渡すっていうちゃんとした名目があるんだから。
今日私、本当はこれからクリーニングに行く予定だったから、せいらちゃんに行ってもらえると助かるの!」
のセリフの勢いで吹き飛ばされて。
わたしは、急遽、郁がいるスタジオに鞄を届けにいくことになってしまった。



