甘くてこまる




クローゼットから適当な服を取り出して、最低限の身だしなみだけ整えて、小走りに玄関を飛び出した、ら。




「ひゃあっ!?」




扉を開けた瞬間、誰かのどアップが目の前に。



驚きのあまり悲鳴を上げると、「ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだけど〜!」と聞きなじみのある声が聞こえてくる。



この声は郁のママ……?





「ちょうど、せいらちゃんに用事があって。インターホン押そうとした瞬間に飛び出してきたから、ナイスタイミングでびっくりしちゃった!」





郁ママは、そう言ってにこにこしている。





「わたしに、用事、ですか?」





心当たりがなくて首を傾げると、郁ママは大きく頷いた。





「そう! あのね、お部屋に郁の鞄、忘れてなかった?」

「……! ちょうど私もさっき気づいて、届けなきゃって」




抱えていたトートを見せると、郁ママは呆れて笑う。




「あの子、普段はしっかりしてるんだけど、たまに抜けてるのよね。さっき、ラインで〈台本入った鞄、せーらの部屋に忘れてきちゃった〉って送られてきて……」