甘くてこまる



𓐍
𓏸



次に目が覚めたのは、2時間後のこと。


ふわあ、よく寝た……と伸びをすると、勉強机の椅子の上に置かれているバッグが視界に入る。



「えっ、これって」



見覚えのある、黒無地のシンプルなトートは、絶対に郁のものだ。

郁が、お仕事のときに、いつも持ち歩いているもの。



慌ててベッドから飛び起きて、トートの中身を確認する。





「“いとしのピンクレモネード” って、たしか、郁が今度出るドラマの……ってことは、これ、台本だよねっ?」



淡いピンク色の薄い冊子とにらめっこする。



よくわからないけれど、ドラマの撮影って、たぶん、台本を持って行って臨むものだよね。

台本片手に監督さんと頭を突き合わせて、打ち合わせする様子を、なにかのメイキング映像で見たような記憶がある。



もう、こんな大切なものを、どうして忘れていっちゃうかなぁ。


郁のうっかり具合に呆れながらも、頭の中はすぐに「どうにかして、郁にこれを届けなきゃ」のモードに切り替わる。