甘くてこまる





「しごとー。あと5分くらいで、もう出る」





土曜日なのに? と思わず、口にしそうになった。


今日も、お仕事なんだ。


土曜日と日曜日は、あたりまえにお休みのわたしとは、まったく別の世界にいる。



すごいなぁ、と感心しているうちに、5分間はあっという間に過ぎて。




「じゃー、行ってくる」

「うん。頑張ってね」





ひらひらと手を振るわたしに、郁はにやっと笑いながら言う。





「“行ってらっしゃい”って言ってよ」

「え……? ええと、じゃあ……行ってらっしゃい」

「ふは。新妻みたいで、かーわいい」

「!」





また、郁は、わたしのこと、からかって……!



むうと唇をとがらせるけれど、当の郁は、忙しく部屋を出て行ってしまったから、昂った感情の行き場はなくなってしまった。




郁がいなくなって静かになると、再び、眠気がやってきて、ふああ……と欠伸がもれる。



いっか、今日は二度寝しても……だって、土曜日なんだし……と、まどろみの中に意識を失った。