甘くてこまる



たしかに「美味しそう」くらいは言ったかもしれない。

うらやましい、って顔に出てたかもしれない。




でも、それっていつの話?



郁が〈シュクレ・ロマン〉のシュークリームを食べる様子が雑誌に載ったのは、中学生の頃。

少なくとも、もう半年は前だよ。




そんなに前のこと、しかも些細なことなのに、覚えててくれたの?


びっくりして目を見開くと、郁は箱のなかからシュークリームを取り出す。





「召しあがれ」

「いいのっ?」

「せーらのために、もらってきたって言ってるじゃん」





つやつやキラキラのシュークリームをわたしの口もとに運ぶ郁。


わたしは思わずのけぞった。





「〜〜っ、あのっ、だからわたし、自分で食べれるよっ」





郁が食べさせようとしてくれなくても。

やんわりと断ったのに、郁はなぜか首を横にふる。





「だめ」

「なにが……」


「手ずから食べないなら、あげない。これは、おあずけ」

「そんなっ」




郁はシュークリームをひょいと遠ざけてしまう。

慌てて郁の袖をつかんで、引き戻した。



卑怯だ。



郁がそこまで食べさせることにこだわる理由はよくわからないけれど、結局、わたしは食欲には勝てなかった。

眉を八の字に下げながら、郁をじっと見上げる。




「おねがい、シュークリーム……ちょうだい?」