「なんですか、これは」
「こっちも食べる?」
警戒して身構えるわたしに、郁はくすっと笑って箱を開ける。
白い紙箱のなかに、ちょこんと収まっていたのは、小ぶりなシュークリーム。それも、普通のシュークリームじゃなくて……。
「ええっ、ここここれって」
「どう? 食べたい?」
どう? とかじゃなくて。
郁とシュークリームを交互に見比べながら、興奮まじりに声を上げる。
「前に、郁が雑誌の取材で食べてた、〈シュクレ・ロマン〉のシュークリーム……っ!?」
「そ、せいかーい」
ただのシュークリームじゃない。
フルーツソースやチョコレートで、まるで高級ジュエリーみたいにつやつやのキラキラに仕上げられているそれは、〈シュクレ・ロマン〉という名の超人気店のもの。
雑誌の特集で郁が食べていて、あまりに美味しそうだったから調べてみたら、店舗は朝イチに訪れても買えるかどうかわからないほどの大行列で、オンライン予約は5ヶ月先まで完売だっていうから。
わたしみたいな一般庶民にはまだ早いかぁ……と諦めていたんだけど。
「なっ、なんで……っ?」
「今日の現場の差し入れ。せーらが『食べたい』って言ってたから、特別に持って帰らせてもらった」
「へ……? わたし、そんなこと、言ってない、と思う」
たぶん、ううん、絶対言ってない。
「そ? でも、食べたそうにしてただろ」



