「ほら、口開けて」
「ぁう……」
「あーん」
郁のいじわる。
そうやってすぐに、わたしのこと、からかうんだ。
反抗心はたしかにあったはずなのに、結局マドレーヌの誘惑に負けて、素直に口を開けてしまう。
“あーん” までの流れはどう考えても強引だったのに、いざマドレーヌを口内に押しこむ指先は、そうっと、苦しくないくらいの力加減で、丁寧だった。
ふに、と郁の細い指先が、一瞬唇にふれて。
それが気のせいに思えるくらい、すぐに離れていく。
「……!」
口いっぱいに頬張ったマドレーヌを、一所懸命、もごもごと咀嚼して。
小麦とバターとバニラのふわふわな香りが、ぶわっと鼻腔に広がって、目を輝かせる。
わたしのキラキラの目に気づいた郁は、ふにゃっと笑った。
「美味しい?」
こくこくと首を上下に何度も動かすと、郁は「ふは、そんなに?」と半信半疑といった様子で笑った。



