甘くてこまる



𓐍
𓏸




「せーら、あーん」

「じっ、自分で食べられるよっ」




家に帰ってくると、リビングになぜか郁がいた。


ママの定位置のソファに腰掛けて、それがあたりまえかのようにくつろいでいて、一瞬幻覚でも見てるのかと思ったのだけれど。


ママからは「ゆっくりしていってね」って許可はもらっているらしい (当のママは、買い物に出かけたそう)。



あれよあれよという間に、郁の膝の上に乗せられてしまった。





「マドレーヌ、要らない?」

「食べたい、けど」





昨日、言っていたとおり、郁のママはマドレーヌとクッキーを焼いてくれたみたい。

それを、郁が持って来るのはまったく予想外だったけれど……。



郁は甘くていい香りの焼き菓子をつまみ上げて、わたしの鼻先で誘惑するようにちらつかせる。