♡
𓐍
𓏸
「せーら、あーん」
「じっ、自分で食べられるよっ」
家に帰ってくると、リビングになぜか郁がいた。
ママの定位置のソファに腰掛けて、それがあたりまえかのようにくつろいでいて、一瞬幻覚でも見てるのかと思ったのだけれど。
ママからは「ゆっくりしていってね」って許可はもらっているらしい (当のママは、買い物に出かけたそう)。
あれよあれよという間に、郁の膝の上に乗せられてしまった。
「マドレーヌ、要らない?」
「食べたい、けど」
昨日、言っていたとおり、郁のママはマドレーヌとクッキーを焼いてくれたみたい。
それを、郁が持って来るのはまったく予想外だったけれど……。
郁は甘くていい香りの焼き菓子をつまみ上げて、わたしの鼻先で誘惑するようにちらつかせる。



