「いる。好きな子、ずっと前から」
紘くんの声が、妙に甘い。
ひんやりあまい、アイスクリームみたい。
紘くん、いつの間に、恋なんてしてたの?
それはあまりに衝撃的なことで、わたしはぱちぱちと瞬きを繰り返して、金魚みたくぱくぱく唇を開閉させて。
「そう、なんだ」
ようやく口にしたのは、それだけの返事。
紘くんもそれ以上は何も言わず、下駄箱から靴を取り出して、履き替えている。
すんとすました顔は、さっき見せた甘さが、幻だったかのようだ。
並んで、通学路を歩く、いつも通りの帰り道。
夕焼けに照らされた紘くんの横顔がやけに大人びて見えて、わたしの心のなかだけが、ざわざわと波を立てている。
だって、まだまだ恋なんて、わたしたちには早いって思ってたんだもん。
想像もしたこと、なかったけれど……。
ほわん、と頭のなかに浮かんだのは郁の姿。
じゃあ、それなら、郁も。
もしかして、郁にも、好きな子、いたりするのかな。



