なにを期待しているのかはわからないけど、ママはすぐにそういう話に持っていきたがる。
わたしが、郁に恋、なんて……。
「っ、ありえないよ」
ママならもう少し食い下がってくるかと思ったけれど、意外にもあっさり「それもそっかあ」とうなずいた。
「いっくんも、もうすっかり芸能人だもんね」
「……うん」
「あ、うわさをすれば!」
見て見て、とママがつけっぱなしのテレビを指さす。
街ぶらロケが中心のバラエティ番組。
ゲストとして登場した郁が『どうもこんにちはー、矢花郁です』と、爽やかな笑みを浮かべながらMCの芸人さんに挨拶をしている。
「わ、いっくん格好いい〜! アップにされても、お肌つやつや! うらやましい〜」
「もー、ママってば。いい加減、お隣さんをそんな目で見ないでよっ」
うっとりしたハートマークの目を向けるママをたしなめる。
「だってえ、格好いいんだもん。昔から綺麗な顔してたけど、最近ますます磨きがかかってハンサムって感じで〜!
テレビでもよく見るようになったし……。そういえば、今度また地上波でドラマもやるんだって?」
そうだよ。
このロケ番組も、ドラマの番宣で出ているはず。



