彼女がいるなら私に用はないと、徹だって理解するはずだ。


「はい」


徹の声が聞こえてきて心臓がドクンッと大きく跳ねる。


少しでも落ち着こうと深呼吸をしてみるけれどうまくいかない。


緊張はほぐれるどころか加速していく。


玄関が小さく開いて徹が顔を覗かせる。


その瞬間呼吸を止めていたかもしれない。


笑顔を作ろうとしたけれどうまく行かなくて、変な顔になっていたかもしれない。


だけどそんなのどうでもよくなるくらいに愛しい気持ちがこみ上げてきてしまった。


好き。


その感情だけが体を支配しているみたいだった。


徹は驚いた表情をこちらへ向けている。


私は徹の足元へ視線を向けた。


玄関先には誰の靴も置かれていなくて、心底安堵した。


少なくても今は誰も家にいないみたいだ。


「明日香ちゃん!」


次の瞬間徹が駆け寄ってきて私の体を抱きしめていた。