「大雨の中、傘もささずにどうしたの?」

コーヒーを飲みはじめて少ししてから、槙田くんが優しくそう聞いてきた。

正直、話すのは、さっきの振られたことを思い出して少し辛かったけど、ここまでしてもらって何も言わないわけにはいかないよね…。


「付き合ってた人に振られちゃって。そのショックでしばらく動けなかったというか…」

「…そっか。なんかごめんね。辛いことを言わせちゃって」

簡単に状況を説明すると、槙田くんは申し訳なさそうに謝ってくれた。


「ううん。大丈夫だよ」

私はまた一口、コーヒーを飲む。

槙田くんが入れてくれたコーヒーは、砂糖とミルクの加減がちょうど良くて、あっという間にカップの中身を飲み干してしまった。


「ねえ、相田さん。彼氏と別れて寂しい?」

さっきまで向いに座っていた槙田くんが、マグカップをテーブルに置いた私を見て、すっと私の隣に座ってきた。

驚いて思わず槙田くんの顔を見ると、すごく真剣な顔で私を見つめている。

しばらく何も言えなくて見つめ合っていると、どんどん距離を縮めてきて、私の頬にそっと優しく手を添えてきた。


「それは、もちろん…、寂しいよ」

距離の近さと、頬に優しく添えられた手…。

槙田くんの行動の全てにドキドキしてしまう気持ちを隠すように、目を逸らしてそう答えた。


寂しいに、決まっている…。だって彼氏と別れたんだから。

寂しい、という気持ちを口にすると、なんだか悲しくなって目の奥がじわりと熱くなる。

泣きそう、そう思った瞬間…、目の前にいた槙田くんの唇が私の唇に重なっていた。