「コーヒーに砂糖とミルクは入れる?」

「あ…、うん!」

キッチンから槙田くんの声がして、慌てて返事をすると手際良く準備をしてコーヒーの入ったマグカップを持ってきてくれた。


「飲んだらあったまるよ。どうぞ」

「ありがとう。いただきます」

マグカップを槙田くんから受け取って、ふーっと何度か息を吹きかけてから口をつけた。

…あったかくて美味しい。思わず頬が緩んだ。


「ごめんね。ここまでしてもらっちゃって」

「全然いいよ。俺が相田さんを無理矢理つれてきちゃったんだし」

コーヒーを飲んで少し気持ちが落ち着いたところで、改めてお礼を言うと、槙田くんはふわっと優しく笑い、私の向かいに座ってコーヒーを飲みはじめた。


今、目の前に座っている槙田くんという人は、大学でとても人気の存在だ。

かっこよくていつも笑顔で、少し童顔な槙田くんは親しみやすい雰囲気をしている。

誰にでも優しくて、サッカーサークルに入っている彼は運動もできるらしい。

私みたいな地味な子に対しても、態度を変えることはせず、分け隔てなく話しかけてくれるから槙田くんの周りには男女問わずいつも人がいる。


そんな槙田くんとはゼミが一緒だけど、挨拶をするくらいの仲だった。

陽の雰囲気を持つ槙田くんと私では、人生が交わることは決してないんだろうなって勝手に決めつけていたから。

だから今、槙田くんの家にお邪魔しているこの状況が、なんだか夢でもみているように思えて仕方なかった。