すずらんに幸あれ!


言いたいことはいっぱいあったが、彼女ではないので心の中で留めておくことにした。

すずくんは「……メッセージ?」と再度首を傾げて思い出したかのように「…あぁ」と声に出す。


「そういえば俺、今日スマホ机の上に置いたまま学校行ってたからメッセージなんも見てない」

「えっ、忘れてたの?」

「……」


ぱちくりと目を瞬かせる私をよそに、すずくんはゴソゴソと鞄の中を探し始める。

そして、その中から物を取り出して"それ"を私に見せた。


「…テレビのリモコンをスマホと間違えて持って来てた」

「………」

「………」


物凄く真剣な表情で言うので、反応に困ってしまった。

真っ直ぐに私を見つめる視線と絡み合う。

台詞が少し残念だが、相変わらず、男前だな…と呑気なことを考えた。

すずくんの瞳からリモコンへと視線を移す。

彼の言う通り、よく見ると(うち)のテレビのリモコンだ。

時代劇の「水戸黄門」で有名な台詞を言いながら印龍を見せつけるように、テレビのリモコンをこちらに向けている。