発見した時、ルーと女王は地下通路で亡くなっていた。
二人を一本の剣が貫いている状態で、ルーは女王を抱きしめた状態で満足気に亡くなっていた。
自分で決着をつけたいとルーは言っていた。そのために少しの間だけ時間が欲しいと。私はルーの望みを叶えることにした。
ルーの選択は予想していた。
止めるべきかと悩んだ。でも、シーラの末路を考えるとあのまま死んだ方が彼女のためなのではないかと傲慢とも言える考えが浮かんだ。
それに何だかんだ言いながらルーはシーラにひとかたならぬ思いを抱いているように感じた。だからルーがどのような選択をしても尊重しようと思った。
女王亡きパイデスはエルダの第二王子が新たに国王となった。
彼の先導のもと、ヤンエイ公爵初め、主だった貴族は処刑、追放や爵位剥奪となった。
女王が建てた孤児院は平民用の学校として使うことが決定。平民が働きながらでも学べるよう予約制のちょっと変わった学習塾のようなものだ。
そこに移り住む予定だった孤児は元の孤児院に戻り、雇われたスタッフは新たに雇用先を紹介して解散となった。
「国王様がエルダの王子になったら俺たちも何か変わるんですか?」
「何も変わらないよ、ヤン。これまで通り、ルーエンブルクは何も変わらない。いつも通りの朝を迎えて、いつも通り仕事をする。それだけさ」
何らかの罰が下った貴族たちに「売国奴」「裏切り者」と様々な言葉で罵られた。別にその通りだから否定はしなかったし、傷つく心もなかった。
私も罰を受けるだろうと思い、順番を待っていたのだが「忠臣の裏切りはそうさせた国に問題があり、忠臣に負うべき咎はない」とミラン殿下に言われてしまった。しかも「これまで通り、国の発展に尽力するように」とまで言われてしまえば食い下がることもできなかった。
「お望み通り、国の発展に尽くしますかね」
「領主様、何か言いましたか?」
「何でもないよ、ヤン。さぁ、仕事を始めよう」
「はい」

◇◆◇

side .ミラン

「意外でした」
「何が?」
事後処理が終わり、弟に引き継ぎも済ませたので今からエルダに帰ることになる。最後に一目、アイリスを見ようと馬車の中から彼女の姿を探した。
ヤンとかいう男と去って行く彼女の後ろ姿を見ると、ずっとそばにいて欲しいという欲望が顔をあげる。
「てっきりアイリス様を連れて帰るのかと」
乳兄弟だけあってこのノエイという男は本当に容赦がない。
「できるならそうしたいさ。でも、自由に飛び回る鳥を籠に閉じ込めるのは好きではない」
「では諦めるのですか?」
「まさか」
そんな選択肢は初めからない。
「今は好きにさせているだけだ」
「先ほど言ったことと矛盾してしませんか?」
「何も矛盾してはいないよ」
「でも閉じ込めるのは好きではないのでしょう」
ノエイは分かっていないな。
「閉じ込められたという認識を与えなければいいだけだ。やり方はいくらでもある」
私がそう言うとノエイは呆れたようにため息をついた。
俺はノエイから視線を外し、アイリスが去って行った方に目を向ける。
「アイリス・ルーエンブルク、しばしの別れだ。変な虫がつかないように彼女に護衛をつけておけよ」
「護衛じゃなくて見張でしょう。つけていますよ」
優秀な従者に返答に満足して私たちは帰路についた。