side .ルー

「私はパイデスの女王として皆さんを導き、この国を笑顔でいっぱいの国にします」
王女は女王になった。
戴冠式を終えた女王はさすがに疲れているようだ。
部屋には俺と侍女と女王だけ。あとは女王が下がらせてしまった。
「ルー、私は今日、女王になったわ」
「はい。おめでとうございます」
「国民にも宣言したように私はこの国を幸せいっぱいの国にするつもりよ」
「・・・・・」
本気で言っているのだろう。
でも、もう幸せなお姫様だと笑える状況ではなくなっている。そのことに彼女だけが気づいていない。
「そのためにはまずスラムから着手しようと思うの」
「・・・・・」
「あなたの生まれ育った場所でもあるし、私としてはやっぱり大切な弟が気兼ねなく暮らせるようにしたいと思うの」
スラムで育った人間がスラムを大切にしていると、故郷だと思っていると思っているのか。
俺にとってこの国が、あんたがどうなろうがどうでもいい。それと同じくらいスラムのことも、そこにいる奴らのこともどうでもいいと思っている。
それはスラムにいる奴らだって同じだ。
スラムにいる奴らが同じスラムの人間を気にして生きることはない。そんなことができるのは余裕のある人間だけだ。
スラムはこの国の汚い物を寄せ集めてできたような、掃き溜めの場所。
どうしてそんな場所を故郷だと思えるだろうか。きっとあんたにはそんな俺の心情な#理解__わから__#ないだろうな。
「スラムをどうなさるおつもりですか?」
「スラムと呼ばれる場所自体を無くそうと思うの。私が統治する国には相応しくないし」
「スラムにいる人はどうするおつもりですか?」
「他の平民たちと同じように暮らせばいいわ」
展望のない意見や行動力に救われる命はなく、ただ憎しみと不満を増やすだけ。
「どうやって?それができないからスラムにいるのに」
「仕事をする素晴らしさを教えるわ。仕事をせず怠惰に過ごすことを好む者がいなくなればスラムなんてできなくなるもの」
「っ」
ああ、そうか。
彼女は俺たちが働けないのではなく働かないだけだと思っているのか。
仕事がないという発想すらない。
貧困は、見知った連中が餓死したり、ただの風邪で死ぬのを眺めていることしかできない日々を送っているのは全て俺たちが怠惰であるからと。
「素晴らしさを知ったとして、仕事はどうされるんですか?仕事先がなければ働けません」
「仕事ならいくらでもあるわ」
「たとえば?」
「そうね」と女王は少し考えてから思い浮かぶ仕事をあげ連ねていく。
侍従、騎士、メイド、侍女、産馬、医者、看護師、商人などなど。
相手は女王。
ことと次第によっては俺の首が飛ばされかねない。だから俺は血が出るほど強く拳を握りしめた。そうしなければ女王の顔を原形が止めないくらいまでに殴ってしまいそうだったから。
「学のない連中がそのような仕事にありつけますか?」
「身につければいいわ」
「どうやって?教師もいないのに」
「学ぼうと思えばいくらでも方法はあるわ」
ああ、あんたにはあるだろうよ。だってこの国の姫として何不自由なく暮らし、望むだけでその全てを手にしてきたのだから。
全てを持っているものは何も持っていないものの気持ちが分からない。
「学ぶための金がありません。文字の読み書きも、簡単な計算すらできません」
「そうね。今までそうしてこなかったもの。自業自得と切り捨てることもできるけど、今までのツケを私の政策で払わせるわ。そうすればもう二度とスラムに行くこともないでしょう」
会話にならない。
「そうですか。どうあってもなさるのですね」
「ええ。この国のためには必要なことよ。あなただって、スラムの人が同じように暮らせれば素敵だと思うでしょう」
「・・・・・そうですね」
女公爵様の提案を受けよう。これ以上はこの人についていけない。