side .シーラ

「みんな、私と一緒にお茶にしましょう」
良い天気だから侍女に庭でティータイムができるように準備してもらった。
「俺、仕事があるから」
「俺も」
「私も」
そう言って去ろうとする子供たちを私は慌てて止めた。私はアイリスのように子供を働かせるようなことはしない。私はアイリスと違うのだと教えてあげないと。
「そんなことしなくて良いのよ。あなた達は子供なんだから」
「でも、働かないと俺たちは生きていけない」
可哀想に。そういうふうに教え込まれたのね。
「働かなくてもご飯を抜いたりしないわよ。子供はたくさん遊んで、たくさん食べて、たくさん寝るのが仕事なんだから」
それが普通なのだと、今までの生活がおかしかったのだとどんなに教えても子供達は私に近づこうとしなかった。警戒心剥き出しで私を睨むばかり。
きっとそれだけここでの生活が過酷だったのだろう。
「俺たちは孤児だ。貴族じゃねぇ。俺たち平民はあんたらみたいなのが優雅にお茶できるように働かなくちゃいけねぇんだ。あんたみたいなお姫様の言うことなんて信じられるか」
「薄汚い孤児風情が先ほどから無礼ですよ」
「ノーラ、ダメよ」
孤児達の態度に我慢の限界が来たのか侍女のノーラが手を上げそうになったのを私は慌てて止めた。ここで暴力に訴えては信頼関係など築けない。
それに彼らは孤児だから王女の私にどのような態度で接するのが正解か学んでいないはずだ。礼儀を弁えていないのは仕方のないこと。
「ここでは身分など関係ないわ、ノーラ」
「しかし」
まだ不満そうなノーラに強く名前を呼ぶと私の気持ちを汲んでくれて大人しくなった。
「私はみんなが幸せになるための国づくりをするためにみんなが納めてくれたお金を使うつもりよ。無駄にしたりはしない。約束するわ。そのための第一歩としてみんなと仲良くしたいなぁって思っているの?ダメかな?」
黒髪の男の子が私を睨みつける。さっきから彼ばかりが反論して、それ以外の子は彼に便乗している感じだ。多分、彼が孤児院でのリーダー格なんだろう。彼から攻略すればきっとみんなも私のことを警戒しなくなる。
「俺たちの先生を追い出しておいてふざけるなっ!王女様の道楽に付き合ってたら俺たちは飢え死にしちまう。おい、行くぞお前ら」
「うん」
黒髪の子が他の子供達を連れて行ってしまった。
「何と無礼な。殿下、あの子供を不敬罪で罰しましょう」
「ノーラ、あの子達は傷つきすぎて私たち大人を信じられなくなっているのよ。だから多少の不作法は許さなくっちゃ」
「しかし・・・・・王女様は優しすぎます。あの黒髪の少年の態度は首を刎ねられても文句を言えないほど無礼なのに」
「私は気にしていないわ」
仕方がない。一人でティータイムを楽しむしかないわね。
ああ、みんなと楽しくお茶ができると思ったのに。子供って難しいわね。でも、それ以外は極めて順調ね。虐待をしていたスタッフは追い出せたし。私の信用できる侍女達で孤児院を囲んでいるから子供達は安心して過ごせるようになったし。
孤児院経営って案外楽ね。
「殿下、頼んでいた食材が来ました」
「本当っ!」
侍女のミーリャが知らせに来たので私は急いで届いた食材を見に行った。
飢えている子供に美味しいものをたくさん食べさせたらきっと私に対する見方は変わるはず。胃袋さえ掴んでしまばこっちのものよ。