「今回の連続殺人犯、戦場に行った下級貴族なんですってね」
「まぁ、怖い。戦争は終わったというのに」
「貴族のくせに傭兵に混じって野蛮な行為をするから天罰が降ったんですわ」
王宮で、何も知らない貴族の令嬢が当然の顔をしてジョシュアを罵った。ただ守られているだけだった立場の人間が、命をかけて戦ってきた人間を貶す資格があるの。
「面白い話をしているな」
「あっ、ルーエンブルク女公爵」
先ほどまで饒舌に話していたくせに私が来ると誰もが口を閉ざし、気まずげに視線を逸らした。その行為が余計に私の気を苛立たせるとは思ってもいないのだろう。
「どうした?先ほどまで饒舌に話していたではないか?とても興味深い話故に私も続きが聞きたい」
「女公爵、その・・・・・」
「続けろ」
「っ」
令嬢たちはガタガタと体を震わせる。恐怖で何も言えなくなってしまったようだ。これ以上の恐怖を味わった者を嘲笑っていたくせにこの程度とは。
「『傷の痛みを知らぬ者は他者の傷を見て嘲笑う』まさにその通りだな」
「女公爵、その辺で勘弁していただけませんかね」
「・・・・・」
茶髪に茶色の目、日に焼けた健康的な肌をした男と銀色の髪に金色の目をしたメガネがとても似合うイケメンがやってきた。
茶髪の方は騎士団長のグラニーツァ・ボーダー。銀髪は副騎士団長のインテリオール・エクスティリアだ。
「東の英雄殿の殺気で城内の騎士たちが騒いでいる」
「・・・・・そのあだ名で呼ばないでいただきたい」
東部に配置された時に敵を殲滅させたことがあった。公爵位を賜ったのはその功績が大きかったが私にとっては忌まわしい呼び名でしかない。
人殺しを英雄と称えるなど同じ人間だと思いたくもない。
「そうツンケンすんな。お嬢さんたちもここが王宮だということをお忘れなきように。平民、貴族、傭兵、騎士と様々な身分、様々な職種の人間が自国を守らんと武器を取り戦った」
騎士には当然、高位貴族もいるし、私のように戦場で活躍して爵位が上がった人間もいる。下手に突っつけばその者たちの怒りを買うことになるし、場合によっては家門に泥を塗ることもあるというグラニーツァの言葉に令嬢たちは私の殺気で青くしていた顔を今度は真っ白にしていた。
もうジョシュアを侮辱していた時の勢いは完全に削がれている。
「分かったらお家へお帰り」
「・・・・・失礼します」
「失礼します」
一人、また一人と頭を下げて背を向けていった。
その背を見ながら私はやるせない思いになった。
「女公爵、彼女たちも悪気があったわけではない」
「悪気がなければ何を言っても許されるのですか?犯罪者を擁護することはできません。どのような理由があろうと命を奪うことは許されない行為であり、彼が世間から非難されるのも責められるのも当然のことです。ですがあのように侮辱される謂れはありません。このような結果になりとても残念ではありますが、彼は国のために戦った立派な戦士の一人です」
「そうだな。俺の言葉が悪かった、すまない」
「・・・・・いいえ、こちらこそ生意気を言いました。今のは八つ当たりです。申し訳ありません」
騎士団長に言っても仕方のないことなのに。
「私も失礼します」
「・・・・・女公爵、あまり眠れていないのではないか?顔色が良くない」
彼は今の地位に就く前に多くの死線を潜り抜けてきたからきっと私の今の状況や生き残った者の末路に私よりも詳しいだろう。だからとても心配そうな顔で私を見ていた。
でも、心配されたところで結果は変わらない。
「やることが多くて休息を疎かにしすぎているようです。帰ってゆっくりと休みます」
私がそう言えば騎士団長は何も言っては来なかった。