初めてのデートで来た映画館は、思ったよりも人が少なかった。
甘ったるいポップコーンの匂いが漂う暗闇の中、隣に座った悠李にこっそりと目をやる。
スクリーンの光に淡く照らされた悠李の横顔は、やっぱり綺麗だった。
この横顔をずっと眺めてきた。
きっと、これからもそれは変わらない。
だって付き合えたとはいえ、いつ他の女の子に目移りしても不思議じゃないくらいに悠李は凄くもてている。
実際、悠李の周りにいる女の子は、彼女がいようが関係なく悠李を遊びに誘おうとしているらしい。
しかも、彼女は冴えないこのわたしだ。
誰がどう見たってお似合いのカップルとは程遠い。
それでも、こうして悠李の横顔をそばで眺めていると、わたしだけの悠李でいて欲しいと願ってしまう。
たとえ、それが叶わない願いだと分かっていても。
「ん、いる?」
ドリンクホルダーからジュースを手に取った悠李は、ストローの先をわたしに向けた。
いらない、と首を横に振る。
「映画、面白い?」
「面白いよ。何で? 悠李は?」
「面白いよ。彩月、こっちばっか見てるから」
悠李は軽く笑いながらスクリーンに視線を戻すと、ストローを口に加えた。
わたしが、ずっと悠李を見つめていたことに気付いていたらしい。
これは恥ずかし過ぎる。
映画の内容なんて、ほとんど頭に入っていないこともバレていそうだ。
「ごめん。ほんとは映画全然観てない」
「面白くなかった? 出る?」
悠李は、わたしの様子を伺うように顔を傾けた。
気遣ってくれる悠李の前で、自分の気持ちをごまかすのは違う気がする。
わたしは俯いて、スカートをぎゅっと握った。
「違うの。映画なんか、どうでもよくなっちゃうくらい悠李を見てたの。悠李が、かっこよくて。わたしだけの悠李でいて欲しいって」
ガシャガシャと騒がしい音が聞こえてくる。
顔を上げると、悠李は落としそうになったジュースを持ち替えながら、目を丸くさせていた。
「……は?」
わたしと目が合うなり、悠李は腕で素早く顔を覆った。
明らかに挙動不審なその様子に、やっぱり言わなければ良かったと肩を落とす。
「ごめんね。今の忘れて」
「忘れられるかばか」
悠李は腕をおろし、ドリンクホルダーにジュースを置いた。
いつもの綺麗な横顔にドキリと胸が高鳴る。
お互いの間に遮るものがなくなって、何となく気まずくなったわたしは距離を取るように座り直した。
「おれも見てたよ。彩月のこと」
「え、わたしのこと?」
眉が跳ね上がり、勝手に口元が開く。
悠李はこちらに振り向くと、きょとんとするわたしに真っすぐな視線を投げた。
「ずっと見てたよ。絶対、離さねぇと思ってた」
「……は?」
みるみる頬が熱くなる。
思いがけない告白に狼狽えるわたしの目の前に、悠李は手を差し出した。
「とりあえず手、繋ぐ?」
「え、手?」
「はい、こっち」
悠李の手が、少し強引にわたしの手を包み込む。
冷たいジュースで冷えた指先から、優しい体温がゆっくりと伝わってきた。