「ジェイデン様!」





 俺の存在に気づいたらしい。エルビナがこちらに駆け寄ってきた。

 



「殿下に聖堂まで来ていただけるなんて光栄ですわ……! わざわざご足労いただき、ありがとうございます」



「いや。君の方こそ、いつもご苦労様。本当はもっと足を運びたかったのだけど」





 これまで俺は、聖堂にはあまり立ち入らないようにしていた。

 公務の棲み分けとでも言おうか――――彼女は兄上の婚約者だから、過度に交流を持ってはならない。

 だから、これまでエルビナとは上辺だけの付き合いしかしてこなかった。





「突然のことで驚きましたでしょう? ジェイデン様には申し訳なく思っているのです。わたくし達の事情に巻き込んでしまって……」



「一体、何があったのです? 父上も兄上も、俺には何も話してくれなくて」





 民から距離を取りながら、俺は尋ねる。すると、エルビナは大きな瞳を潤ませ、そっと俯いた。体格差のせいで表情が見えないが、泣いているのだろうか? 胸がつぶれるような心地がして、俺は彼女の肩を抱いた。