先程までとは打って変わり、父上は上機嫌に微笑む。

 二人はこれ以上の事情を話す気がないらしい。急かすようにしながら、俺を部屋から追い立てる。





(何が何やら分からないが)





 俺には拒否権はないらしい。

 事の重大性は分かっているし、政略結婚に不満もないが、釈然とはしない。



 いつになく口数の少ない兄上を振り返りつつ、俺は静かに部屋を後にした。





***





 聖女エルビナは、城にほど近い大聖堂の中で、神に祈りを捧げていた。



 光に透ける薄紅の髪、ルビーのように深く神秘的な紅の瞳。未だあどけなさが残るものの、雪のように白く美しい肌に薔薇色の頬、人形のように整った目鼻立ちをしていて、妖精や天使、女神の呼称がよく似合う。



 そのあまりの美しさ故、彼女を一目見るだけで寿命が十年伸びると言われており、聖堂は今やちょっとした観光スポットになっている。滅多に人前に姿を現わさない王族の人間よりも余程、彼女の方が人気者だ。今だってそう。お祈りを終えるや否や、たくさんの人に囲まれている。