俺は激しく困惑していた。



 目の前には自身の兄で第一王子のローガンと、我らがノザランディア王国の国王である父が並んで座っている。二人ともダラダラと汗を掻き、酷く青褪めた表情だ。





「一体どうなさったのです?」





 呼び出されてから既に十分。どちらも中々口を開こうとしない。何度も顔を見合わせながら口を噤み、首を横に振るということを繰り返している。





「父上? 一体何が……」



「ジェイデン。実は――――エルビナとローガンの婚約を解消したんだ」



「え?」





 思わぬ言葉に目を瞠る。



 エルビナは我が国の聖女であり、兄上の婚約者だ。十二歳の時に聖女の力に目覚めて以降六年間、聖女として、未来の王太子妃として、この城で生活をしている。



 彼女の力は絶大で、人々の傷や病を自在に癒し、飢えを満たし、大地や運河、天災をも鎮めてしまう。当然、民からの人気や人望も厚く、今やエルビナなしにノザランディア王国は成り立たない。



 そんなエルビナとの婚約を解消してしまうだなんて、正直言ってありえない。どうかしているとすら思う。