久しぶりの休日、この街をゆっくり眺めようと、市電に乗り込んだ。

地面を走る振動が体で直に感じ取れる。

休日といっても、今日は平日で、観光客はまばらのようだ。

少し離れて座るお隣さんは、次はどの観光地に行くかで悩んでいるカップル。
さらに奥の方に目をやると、わいわいはしゃいでいる仲良さげな女子3人組。

真向かいには、大きなボストンバッグを足元に置いて私を見ている男性が1人。

正確には、私の後ろにある窓の先を見ていた。

微妙に目は合っていないはずなのに、少し垂れ気味の優しい目から離れられない。

ノーセットでも、清潔感のある柔らかそうな栗色の髪の毛が、開いた窓から吹く風で揺れている。

私は立ち上がり、次の停留所で降りた。

終着地まで乗ってるつもりだったが、ちょっとだけ歩きたい気分になった。

降りてから気付いたが、特に行先も決めていなかったので、適当に坂を登ってみる。