僕の心配をよそに、梨香は温室のバラ園で過ごしていたらしい。
「先生のお母様、国府家の方だったのね。
国府のバラ園は噂に聞いていたけれど、本当に素敵ね。」
梨香はそう言いながら、助手席で貰ったバラを愛でた。
まさか、聞くのもコワイ気がするが…。
「梨香、どうやってあの家に連れられた?」
「国府の執事さんだったかしら?
若い男性の方がおふたり、いらっしゃいましたでしょう?」
執事見習いのことだな、きっと。
「先生の言いつけで、お迎えに来たのだと言うことでしたの。」
「…で、そのお迎えの車とやらに、のこのこと乗ったワケだ?」
「のこのこ?…そう、みたい…ね。」
知らない人について行かないってことは、イマドキ幼稚園の子供でも知ってることだろ?
「この…トリ頭っ!!」
車内に僕の怒鳴り声が響き、梨香が耳を塞ぐ。
コイツ、人の説教聞く気ないみたいだな?
路肩に車を停めて、両手で梨香の手を耳から離した。
「この際だから言っておくけど、蒼の家で跡目争いが行われている最中だ。
早々に舞台を降りた僕には関係のないことだが、そうは思わない人間も中には存在する。
奴らは僕の弱点を利用するだろうから、気をつけて貰わないと困る。」
「弱点?」
「梨香を人質に取られたら、僕は相手の要求を受け入れるしかないんだ。
梨香が、大事だから。」
僕がそう言うと、梨香は複雑な表情を浮かべた。
「じゃあ、押入れのスポーツバッグに隠したラブレターは?」
な…何で、それを知ってるんだ?