携帯が、鳴った。
ディスプレイを見ると、元教え子の脩一からだった。
「久しぶりだな、何かあったか?」
『梨香さんって、未だに“先生”って呼んでるんだ?』
「電話、切るぞ。」
まさか、それが本題じゃないだろ?
『さっき梨香さんと会った時に気づいたんだけど、尾行(つけ)られてるみたいだ。
蒼先生、心当たりある?』
何だって!?
「その尾行、脩一の腕力で何とかならないか?」
『悪いけど、俺…ガキ連れてるんっすよ。』
「そうか、それは済まなかった。」
『さっき公園で別れた、夕飯作るって言ってたから真っ直ぐ家に向かってると思う。』
「そうか、連絡ありがとう。」
脩一からの電話を切ると、僕は車を走らせた。
だけど、どれだけ探しても梨香は見つからなかった。
心当たりは…ありすぎた。
正妻の1人息子として生まれたものの、僕には父親の会社を継ぐ気はこれっぽっちもなかった。
ヴァイオリニストになっても良かったけれど、大学の時に興味を持った教師の道を選んだ。
愛しいと思った梨香と出会い、結婚しても…。
蒼家の跡取り問題は、解決したわけじゃないらしい。