山田慈雨(じう)は自室にこもり、電話をかけては切り、かけては切りを繰り返していた。


「ただいま電話が混雑しております。しばらく経ってから…」


あぁ、もう。何度このメッセージを耳にしただろう。


あまりにもつながらない電話を片手に途方に暮れる一方で、そのことが「彼ら」の人気を物語っているようで、誇らしくもある。


机に立てかけられた写真立ての中の生写真、壁に貼ったポスターや雑誌の切り抜き、そしてスマホの待ち受け画面。


部屋の四方八方から彼らに見つめられ、頑張れと言われているような気がする。


昨年のコンサート会場で購入したロゴ入りの時計が、あと10分で午後8時を示そうとしていた。


…ということは、
もうかれこれ一時間以上はスマホを握り続けていることになる。


次のデートの日程が決まるのだ。どうしてここで引き下がることができよう。