5、6秒の沈黙の末、萌香が急に慈雨の腕をつかんだ。


「ねぇ慈雨、オーラス行きたくない?」


オーラスとは全公演の最終回のこと。


今回は仙台の夜公演がオーラスに当たるが、二人とも見事に落選している。


仙台はAOの二人の出身地であり、5年前にデビューイベントを行った地でもある。


コンサートは盛り上がること間違いなし。


それゆえにチケットは大変な争奪戦が予想される。


仙台の昼公演が当選しただけでも奇跡だ。



「まぁ、行かなくていいって言ったら、ウソになるけど……」


「まぁ……東京夜の席にもよるか……」


萌香がつまらなそうにつぶやいた。


今の時点では、自分の座席の位置まではわからない。


もし良席なら、オーラスの席と交換してもらえるかも……と萌香は考えたのだ。


最近はチケットの譲受に厳しい事務所も出てきているが、AOの事務所では定価での取り引きのみ許されていた。


そんなことを話していると、学校が見えてきた。


AOについて語っていると、いつもあっという間に着いてしまう。


「クラス替え憂鬱だなー。萌香と同じクラスだといいな」


「えっ?何言ってんの?慈雨は理系でしょ。私、文系だよ」


「あっ、そうか。じゃあ絶対同じクラスにならないじゃん」


「そーだよ。慈雨ボケてるー」


萌香に爆笑され、慈雨の望みはあっさりと打ち砕かれた。