どこにいるんだ? と聞かれ、ホテルの前にいると告げたが早いか、背後から「いた!」と叫ぶ声。同時に切れた電話にそれを再びバッグにしまうと、駆け寄ってきた伊織が私の隣に立つ男に会釈していた。

「『聚楽──Juraku──』の高村さんですよね?」────と。

 やっぱりと思った。

「『COLORS』の榊と申します。この度のコレクションのイベントプロデュースを務めさせていただきます」

「あなたが⋯⋯。随分お若い方で驚きました」

「よく言われます」と苦笑いの伊織が、私を見つめ不思議そうな顔をする。きっと何で彼と一緒にいたのか聞きたいのだろう、そう思いこれまで経緯を話して聞かせた。

「彼女がご迷惑かけて申し訳ございません。お金の方は僕が立て替えさせて頂きます」

 財布からお金を引き抜く伊織の行動に、何か封筒の代わりになるものをと、折りたたんだハンカチを彼に渡す。そしてそれを千知に差し出すわけだが、渡された本人は頑としてそれを受け取ろうとはしなかった。

「彼女とは全く知らない仲ではないので、その必要はありません。なっ?」

 話を振られ、困惑しながらも軽く頷くだけで返す。

「それじゃ、また後で」

 伊織にそう告げホテルの中へ消えていく後ろ姿を見送りながら、「どういう関係?」と問うてくる彼に「友達」とだけ返した。

「昔の⋯⋯男?」

「なわけないし。とにかく! 忘れたいヤツだから、もう聞かないで」

 察してよ、とトランクキャリーを引き摺り歩き出す。

「ごめん⋯⋯」と少し寂しそうに呟く伊織に、何故が罪悪感が残っていた。