そんな思い出に心を馳せていると、ポンとテーブルに置いていた手に晴久の手が重なった。

「え、何?」
数回瞬きをして、思い出から無理やり戻された心に戸惑う。

「何じゃないよ。ぼーっとして、何考えてるの?」
晴久が重ねた手に力を込めた。

その手からそっと離れようとした時、晴久の背後から柏木さんが睨んでいることに気付く。

まあ、合コンで気になってる人が他の人の手を握っているのを見たらイラっと来る気持ちは分からなくはない。

とはいえ、こうもあからさまな態度を取られるのも癪に障るのよね。
さっきから晴久にロックオンしちゃって態度もあからさまで、いらっと思う。

離しかけようとした、重ねられた手をそのままにする。


「八重樫さんはね、新入社員の頃お世話になった人なの。だから懐かしいなって思って」
と晴久に教えていると、
「あー!倖ちゃん?倖ちゃんだよね?」
と声がした。

八重樫さんが私の存在に気が付き、声を掛けた。
久しぶりに聞く『倖ちゃん』。
八重樫さんだけが使う呼び方。

「・・・倖ちゃん?・・・」
晴久がぼそりと呟いた。

そっと晴久の手をどかして
「ご無沙汰してます、八重樫さん」
ペコリと挨拶をする。


「えー。ほんと久しぶりだね。
昔みたいに『ガッシー』って呼んでくれてもいいのに」
「昔から呼んだ覚えないですけどね」
「わはは。相変わらず鋭いー」
「八重樫さんは相変わらず軽口ですね」
「ひでえ。ねえ、倖ちゃんよかったらこっち来ない?久しぶりに話したい」

その一言で、
「ちょうどいいわ。席替えしましょうよ」
と柏木さんが言って席替えが決まった。
柏木さんはさっさと席替えしてたじゃん!と思いつつ、グラスと食べかけの取り皿を持って席を移動した。



私は八重樫さんの隣になり、晴久は秘書課の柏木さんともう一人の子と、企画課かどっかの女の子の3人に取り囲まれるように連れて行かれた。


「倖ちゃん、同じ会社にいるのになかなか会わないもんだね」
「そりゃ、八重樫さんが海外行ったり来たりしてるからですよ」
「それが仕事だからねー」
席に座るなり話しかけられた。


ふと、八重樫さんの香水の香りを感じた。
あ、、、懐かしい。
昔と一緒だ。